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・楽器オモテウラ話_8月号

第 6 章 エネルギー保存の法則

 これまでの半年の間にドラムと音に関する、ちょっと役立つ物理っぽい雑学知識をご紹介してきました。中には面白くも何とも無い話題もあったかもしれませんが、知っておいて損の無いものばかりだと思います。思い立ったら読み返してみると良いかもしれません。

 今回は、今までの総括(と言うほど大袈裟ではないけれど)と、今後予定している事に関する予習という意味も含め、打楽器奏者に役立ちそうな物理学の基礎を考えてみたいと思います。物理と言うとどうしても数式が付いてまわってきますが(これは物理学の共通語として数式がとても重要だからです)、可能な限り数式は使わず解りやすく進めていきたいと思います。


1,物理学を構成する基礎的な概念

 様々な事柄を包括する物理学の分野はその全てが自然界の不思議な現象を理論的に考証し、今後の生活に役立てようと言う思想の上に成り立っているようです。
その内容を大まかに分けると


ア, 物体の運動とエネルギーの関係
イ, 力学
ウ, 電気と磁力
エ, 波動、振動(光や音など)
オ, 量子力学や相対性理論 ..... 等から構成されています。


 これら全てがドラマーに役立つとは限りませんが、調べてみると色々と面白い事が分かってきます(別に勉強する必要はありません。興味を持った事に役立つ雑学として物理に触れてみると、結構面白かったりするのです)。
 それでは、早速本題に入っていきましょう。


2,これまでの復習「振動と音」

 これまでのコラムでは、主に振動と音について色々と考えてきました。これは音、すなわち振動を理解する事で楽器の構造や音作りに関する知識の裏付けをしていく作業をしていたわけです。こんな音が欲しいと考えた時、少しでも手助けとなる知識を持っていれば不要な時間をかけずに済みますね。
 では、音の特性を簡単におさらいしてみましょう。


1.音は物体や空気の振動、そしてその振動が伝わっていく事で発生する。

2.振動の特性はその振動の伝播経路(物体、空気等)の状態(重さ、硬さ、密度等)によって左右される。

3.音の性質(高さ、強さ)は、振動する速さ、大きさによって変わる。

4.様々なパーツが集合した振動体(この場合楽器)はその振動体を構成するパーツの振動特性が複雑に関わり合い、その組み合わせによって発生する振動が異なる。


と、まあこんな感じになります。箇条書きにするとなんて解りにくいのでしょう。
 でもこれが「音」というものを理論的に、端的に表わしているのです。ただし、前回のコラムにも書きましたが音は人間の聴覚や感情によって受け手の印象が大きく変わる物です。あくまで参考と言う事で.....。

 おさらいはこれくらいにして、予習コーナーへ突入です!


3,ドラムプレイと物理学(ニュートンの法則&エネルギー保存の法則)

 実は、物理のお勉強は楽器自体に付いて考えるよりもプレイに当てはめたほうが解りやすく、本当に参考になります。では、いってみよー!!!

ア, ニュートンの法則

 現代の物理学(力学)の基礎となっているもののひとつに「ニュートンの法則」と言うものがあります。多分、中学や高校の授業でも習っているはずです。大きく分けて3つの要素から成り立っています。

<第1法則=慣性の法則>

大雑把に書くと「外力が加わらない限り、止まっている物体は止まり続け、動いている物体は動き続ける。」という事になります。これではあまりにも抽象的ですし、現実味もありません。解りやすい例を挙げれば、電車が止まっている状態から動き出すと、載っている人は後ろへ、動いている状態から止まると前へ体が引っ張られますよね。これが慣性なのです。
実際問題、この法則に対した意味はありません。何もしなければ何も起こらない程度の認識で良いでしょう。

<第2法則=運動の方程式>

第1法則では外力が加わらない状態を言い表しましたが、外力が加わるとどうなんでしょう? それを解説しているのがこの第2法則です。

「ある物体に外力(F)が加わると、力の方向に加えた力に比例し、物体の質量(m)に反比例した加速度(a)が生じる。」

何の事だかさっぱり分かりませんね。不本意ですが数式で表わすと次のようになります。

            外力F=加速度a×質量m

 加速度は速度と置き換えても問題ないでしょう。これをドラムプレイに置きかえると、昨年のコラムでも触れましたが「ドラムを叩く時のパワー(力)は、スピード(加速)と重さの積(掛け算)に比例する。」と言う事になります。

 大きな音が出したければ、重いスティックを使用するか、ショットのスピードを上げれば良いことが分かりますね。

<第3法則=作用と反作用>

「2つの質点の一方が他方に力を及ぼしているときには、必ず後者も前者に力を作用しており、それらの力は両質点を結ぶ直線の方向に沿って逆の向きに作用しており、それらの大きさは等しい。」

 なんで物理を勉強する人はこんな難しい言葉を使うのでしょうかねー。
 解りやすく言うと、

「あなたが何かを押した場合、同じ力で押し返されている。」

と言うことです。
 あなたの体重が50kgだとすれば、地面は50kgの力で押し返しているし、100というエネルギーを楽器に与えた場合、楽器から100のエネルギーが返ってくるということにもなりますね。

 スティックのリバウンドに当てはめて考えれば、リバウンドは必死になって練習しなくても返ってくるものであるということです。物理学の法則の大半は、当該物体に摩擦や空気抵抗が生じないことを前提条件にしている場合が多いのですが、リバウンドが上手く拾えないということは、みずから抵抗を作ってしまっているということになります。

イ, エネルギー保存の法則

 この考え方は、物理学以外にも、経済やスポーツの分野にも取り入れられている、とてもポピュラーな考え方になっています。どんな物かと言うと、

「独立した体系の内部においては、どんな物理的あるいは化学的な変化があっても、全体としてのエネルギーは不変である。」

という、言葉にするとなんとも解りにくい法則です。学校の授業などで具体的な例としてよく挙げられるのに、摩擦のない世界で、物を投げ上げたときの位置エネルギーと運動エネルギーの総和が常に一定に保たれるというものがありましたね。あれのことです。

 エネルギーには運動エネルギー,位置エネルギー,電気,熱や光(波動)など 様々なものがありますが,この色々なエネルギーが相互に変換される際、変換されたエネルギーは変換前と後で変化が無いということをエネルギー保存の法則といいます。

 ここで言う相互変換というのは文字どおり運動エネルギーが熱や光に変わったりすることを言い、ドラムに当てはめるのなら、スティックでヘッドを叩いたエネルギーが音や楽器の揺れ等に変わることです。
 ここで重要なのがエネルギーに変化が無いということ!

 昨年のコラムでも触れたことがあるのでおぼえている人もいるかもしれませんが、要するに楽器を演奏する時に必要以上に力を込めなくても良いということにつながります。
 どういう事かというと、楽器を演奏する時に必要なのは音を出すために必要なエネルギーであり、楽器を飛ばしてしまうためのエネルギーではないので、楽器に加えたエネルギーが100%サウンドとして変換されるのであれば、そんなに大きな力は必要ないということです。

ウ,まとめ

 今回はなんかとってもつまらないコラムになってしまいましたが、楽器やプレイを論理的に考証していくために必要な要素が簡潔に詰まっています。
 今後ハードウェアの検証や効率の良い体の動かしかたを考えていきたいと思っているのですが、その際これらの物理的理論がとっても役立ちます。楽器やプレイにおいて何か疑問な事にぶつかった時、読み返してみて下さい。きっと、何らかのヒントが得られるはずです。


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