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・楽器オモテ・ウラ話_7月号
第 5 章 人間の聴覚とサウンド

 楽器サウンド(音)を認識するという行為を語る上で避けて通れない要素に聴覚の能力や感覚があります。音の認識は聴覚能力の発達度合いや、心理的、精神的な要素に大きく左右される為、ひとつの音を聞いても全く同じ感覚として認識している人はまずいないといって良いでしょう。
 今回はこの聴覚にスポットを当てて音について考えてみたいと思います。



§1,「耳」の構造

 一般的に「耳」というと、顔の側面に出っ張ったいわゆる耳たぶの事を指す事が多いと思います。しかし、感覚器官としての耳は以下の説明どおり3つの部分を指しています。

 いわゆる耳として認識されている部分と鼓膜までを「外耳」と言い集音マイクの役目を果たします。鼓膜のすぐ内側を「中耳」と言い鼓膜の振動を3つの骨で大きくするアンプの役割をしています。そして中耳で増幅された振動を神経信号に変換する「内耳」の3つです。

 よく分からないかもしれませんが、それぞれの部分の性能が聴覚の能力を大きく左右する事は認識して下さい。


§2,音の認識と耳の性能

 普通の聴力を持っている人の可聴周波数帯域(音として聞き取れる周波数の範囲)は20Hzから20kHzと言われています。しかし、この数字はあくまで一般論ですから、もっと幅の広い人もいれば、狭い人もいます。
 聴覚能力が落ちてくれば当然聞こえる幅も狭くなり、高い音が聞こえにくくなったり、ひどい場合難聴になってしまいます。

 人間の聴覚は3から4kHz付近がもっとも感度が良いと言われていますが、これは外耳道(耳たぶから鼓膜までの間の管)の長さがこの周波数に共鳴(共振)するからです。この外耳道を伝わった音は鼓膜の振動という形で我々の体に取り込まれます。当然外耳道の長さによって感度の良いポイントが変わってきます。

 鼓膜の振動は中耳部分で大きな物に変換されます。組み合わさった3つの骨がこすれ合い梃子の原理によって振動が増幅されるため、この骨の滑らかな振動がとても重要である事が考えられます。
 中耳で増幅された振動は内耳へと伝えられ、周波数分析されます。そして周波数毎に分割した神経信号に変換され脳へと情報を送ります。
 脳ではバラバラになった音情報を再構築し、ここで初めて「音」として認知されるわけです。
 周波数分析の能力や信号伝達能力、再構築の際の効率の良さなどで音に対する感覚が左右される事は容易に想像できます。


§3,聴覚能力とサウンド

 耳その物の性能が音を認識するという行為に少なからず影響を及ぼす事は前章の内容で触れました。同じ一つの音を聞いていても、聴覚の発達している人とそうでない人とは全然違う認知の仕方をしているのです。

 この世の中は常にたくさんの音であふれています。しかし、人が聞こうという意志を持たない限り(よほど大きかったり不快だったりする場合、またはよほど印象的な音である場合以外)全く気にも留めていないはずです。
 本人が聞こうと思った時にはじめて音として認識されるわけです。ここが重要なポイントです。
 自分で聞こうとしなければ聴覚は本人の意思どおり働かない事が多いのです。言い換えれば、聴覚に構造上の欠陥が無い限り、訓練次第で優れた聴覚を身に付けると言う事が出来るのです。

 ここでは、耳を鍛える事に役立ちそうな2つの事象に簡単に触れてみたいと思います(っていっても本当にさわりだけです。)

1,マスキング効果

 エアコンを止めたら部屋の中が意外とうるさい事に気が付いたりした事がありませんか? これはエアコンの発する音が他の音にかぶって周囲の騒音を消していたからです。このことをマスキングと呼びます。
 デパートなどではこの効果を利用して、不快な音を目立たなくするために店内に音楽を流したりしています。この効果のもっと前向きな使い方としては、MDやMP3に代表されるデジタル音声データの圧縮技術です。
「どうせマスキングされて聞き取りにくくなったり聞こえなくなるのであれば、最初から録音しなければ良いじゃん」
という発想で音楽データーを初めから軽くしてあるわけです。この技術のおかげでWEB上での音楽配信技術は飛躍的に向上しました。

 この効果を楽器に当てはめてみると、楽器間での音のかぶりによってせっかく良い音を出しても全然聞こえない音になっていたりする事があるということが納得いただけるでしょう。
 逆にスネアドラムを低音で使いたい場合、強制的に高音をカットしてあげる事で低音を目立たせると言った応用も可能になります。
 人間の聴覚は感覚に左右される事が多い事は先に触れましたが、このマスキング効果を逆手に取ることで
「......の様に感じる」
「......の様に聞こえる」
といった感覚的な音作りが可能になるのです。

2,カクテルパーティー効果

 街頭の喧騒の中や居酒屋の騒がしさの中でも友達同士の会話は不思議と成り立ちます。よく「聞き耳を立てる」といいますが、まさしくこの状態の事を指し、会話をしている相手の言葉に集中しているため不必要な音が耳に入って来ないのです。この現象をカクテルパーティー効果といいます。

 このことから、人間の聴覚は集中力さえ切れなければ、かなりの判別能力がある事が分かります。という事は、普段から楽器の音に対して注意深く聞き耳を立てる癖を付ける事で今まで聞こえていなかった、楽器が持つ複雑な倍音までが聞こえるようになる可能性を持っていると言えるでしょう。


§4, 聞こえない音「超低周波と超音波」

 先に、人間の可聴周波数帯域が20Hzから20kHzである事は述べました。しかし、音として聴覚で認識は出来ませんが、振動現象としてはこの帯域の下にも上にも存在しています。
 20Hzより低い周波数を超低周波、20kHzよりも高い周波数を超音波と呼びます。

 CDのサウンドは録音時に発生していた振動現象から可聴帯域以上(20kHz以上)の音はカットされています。聞こえない音だから...という事だと思うのですが、よくアナログ音源に比べるとCDの音は味気ないというような意見を耳にします。これは可聴帯域外のサウンドをカットしている影響かも知れません(近年、アナログ音源と同様にすべての音を記録したCDも作られています)。

 この事から、聞こえないはずの音も決して侮れないという事が解りますね。でも、聞こえないのにどうして?という疑問が湧いてきます。

 繰り返し言っていますが、音は空気や物体の振動現象です。したがって、聴覚で聞き取れなくても肌や骨などを通じて聴覚神経は刺激を受けているのです。
 自分の声をテープレコーダーなどで録音した場合、普段認識している自分の声とは全く違う事に驚く事があります。これは自分の頭蓋骨の骨振動の影響です。このように耳では聞こえなくても肌への圧迫感や空気の動きとして「感じる」音が存在するのです。


まとめ

 ちょっと難しい話になってしまいましたが、いかがでしたか。普段何気なく耳にしている「音」も複雑な過程を経て「音」として認識している事はお解りいただけたのではないでしょうか。
 また、人間の聴覚能力は脳と同じように「使わなければ退化する」という事を理解して下さい。注意深く楽器の音に耳を傾けてみて下さい。きっと今までとは違った音が聞こえてくる(感じられる)はずです。

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