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「今月のおすすめ」番外編!!!
PE'Z REALIVE TOUR 2002 〜おどらにゃそんそん〜 in TOKYO/PE'Z

担当 元リズケン研究生・村上悦子


 格闘技が好きだ。ジャンルは問わない。

 テレビのチャンネルをがちゃがちゃ回していて、そこに格闘技が映し出されると、たちまち私の全神経はそこに吸い込まれてしまう。プロレス、K-1、テコンドー、相撲、ボクシング、柔道、アルティメット、空手等々、何にでも吸い込まれてしまう。
 そしてラリーアットだの、ジャーマンスープレックスだの、かかと落としだの、カウンターの左フックだの、上手出し投げだの、だき別れといったドツキ技を見ているうちに、どんどん興奮してくる。ドーパミン・アドレナリン・セロトニンを始め、ありとあらゆる脳内麻薬が大放出されて瞳孔は開き呼吸は荒くなるのだ。

「いいわいいわ、はあはあはあ」

などとモダえながらテレビにかじりつくのである(私、異常かなあ)。

 他人のドツキ合いを見て興奮し快感にモダえるのだから、ずいぶん屈折した快楽なのだけれど、自分の脳の奥底に眠るナニモノカが刺激されてしまうので、どうにもならないのだ。しかもドツキ合い度が高ければ高い程、それに比例して快感度も上がるので、これはもうほとんど麻薬である。格闘技偏愛依存症という病気があれば、私はそれに冒されている。

 音楽にはこれと全く同じ作用がある。音楽を聴く時、ライブを体感する時、或いは演奏をする時、私は格闘技偏愛依存症を発病する。興奮しちゃって何が何だか分からない、ここはどこ、私は誰?いいわいいわ、はあはあはあ、という状態になるのだ(私、異常かなあ)。

 しかも演奏のドツキ合い度が高ければ高い程キモチ良くなるのも格闘技と同じで、皆さん全員でいたわり合いお手々つないで仲良くしましょう人類皆兄弟、なんて演奏を聴いてもちっとも面白くない。しらけるばかりである(私、異常かなあ)。

 PE'Zは私のナニモノカを目覚めさせる。トランペット、サックス、ウッドベース、キーボード、ドラムスによる五人編成の若手ジャズバンドなのだが、音楽性が高いとか演奏力が高いとか、その手のありきたりな讃辞を木っ端みじんに破壊する、とにかく異常なバンドなのだ。

 ブラスはパパラカ吠えているし、ベースのフレーズには一つも休符が無いし、キーボードはマウントポジションからガンガン拳を振り下ろしながらマイク越しに

「何だこのやろう!」

なんて絶叫してるし、ライドシンバルはグオングオン竜巻を起こしているし、メンバーがくんずほぐれつ互いにドツキ合っているのである。

 ステージでのドツキ合いは、そのままライブ会場全体に広がる。このライブアルバムにみなぎっているのは、殺気だ。バンドのメンバー同士がドツキ合い、バンドとオーディエンスがドツキ合い、あたかも焼き肉屋お一人様90分980円食べ放題ランチタイム・サービスの様な、ギンギンギラギラの本能のぶつかり合いがサクソウするのである。
 うっかりPE'Zのライブ会場に

「あたし〜、好き嫌いが多くってえ、ホルモンなんて食べられな〜い」

とのたまう可愛こブリッコ(うわあ、死語だあ!)が紛れ込んだら大変。たちまちス巻きにされて冷蔵庫の中に放り込まれ、東京湾の海底でシャコと仲良く余生を送る事になるだろう。本能とドツキ合いと破壊の三点セットは無敵のパワーを持つ。

 ドラマーの航氏のセッティングは変わっていて、フロアタムが無い。バカデカ・ファーストタムが一つ、ででんと鎮座ましましているだけで、ぱっと見ただけではガイコツみたいである。ところがその演奏はどうしてどうして、相当骨太だしKONISHIKIばりに肉厚だ。特にシンバルの使い方が絶妙で、実際に演奏する所を見てみないとどうやってこの音を出しているのかが良く分からない。この謎解きもまた、航氏と自分とのセメント勝負の格闘技でどんどん興奮しちゃうのだ。

PE'Zよ、このままドツキ合い続けてくれ。



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