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今月のおすすめ担当  リズケン研究生・則包 桜
「ORGANIC MUSIC」 KOTEZ&YANCY
 ある日のリズケン1Fロビーでの出来事。
 私は受付横にあるデッキで、その頃ハマっていたお気に入りのCDをかけながら机に向かって作業をしていました。
 すると、スタジオでリハーサルをしていた某編集長様のバンドの皆様が、一服しにロビーに出てきて、世間話を始めました。
 しばらくして、ふとその中の一人の男性が、私に熱〜い視線を投げかけているのに気づいてしまいました。

(そりゃ2、3回ここで会ってるし、挨拶程度の会話もしてるから少しは顔見知りだけど、、、でもそんな急に、どうしよう!?)
と、かなり先走ったことを思いつつ、はにかみ笑顔で顔を上げると、、、、

     あっ、、、、、、めっちゃ私のCD聴いてる!!

     、、、熱い視線は全然私にじゃありませんでした。(赤)


そんな私をよそに、彼は

「今かかってるCD誰ですか?すごくいいですね!」

と爽やかな一言。
 ちょっとブルーになりながらも私は気を取り直し、ここからはひたすらこのCDがいかに素敵かを熱く語りました。彼は私の話を聞きつつ、ジャケットを見たりしながら

「いやー、ほんとかっこいいですね!!これ普通に売ってますか?あっ、でもすぐ聴きたいなー。、、、まさかここでダビングとかしてもらえないですよね?」

もちろん私は、

「全然いいですよ!」

、、、即答。
 私の淡い期待は崩れ去りましたが、自分の気に入っているCDに共鳴してもらえた事は、とても嬉しかったのでした。
その後彼は貴重なリハーサルの時間を削って、近所のコンビニへMDを買いに走ったのでした、、、、めでたし、めでたし。

 前置きが長くなりましたが、今回はそんなエピソードを持つこの一枚を紹介したいと思います。



KOTEZ&YANCY/ORGANIC MUSIC

 01, ろっかばいまいべいびぃ
 02, Come On My House
 03. Fever
 04. On The Sunnyside Of The Street
 05. Too Many Cooks
 06. St.Louis Blues
 07. Hello Melancholy
 08. Don't Go No Further
 09. When You Smile 
 10. I Want You By My Side
 11. Organic Blues
 12. やつらの足音のバラード


 まずこの一枚を聴き終えた私の感想は、

      なんて心地の良いアルバムなんだ、、、!!

 別にブルースやファンクが特別好みでもないし全然詳しくもない私が、スタンダード曲を含めたこのアルバムを聴いて、なんだか分からないけどすごく気持ちいい。聴き終えると、また気持ちよくなりたくて、すぐかけてしまう。それの繰り返しで、もう何回聴いたか分からない。まるで麻薬のようです。(注、たぶん)

 なんでこんな気持ちいいのか冷静に考えてみましたが、たぶんすべてのバランスが、今の私にとって最高なんだ、と思いました。

 歌あり、インストあり、カバーあり、オリジナルあり、ブルースあり、ファンクあり、サウダージあり、はじめ人間ギャートルズあり、、、、等々ものすごいバラエティに富んでいる選曲。だけど全ての曲、そのサウンドにKOTEZ&YANCYという二人の人間の、強烈な匂いとものすごい柔軟な感性がにじみでてるから、決してばらばらな感じはしないのです。(こんな事書くの恐縮ですが。)

 ライナーノーツににも少し書かれていて驚いたのですが、このちぐはぐなまとまりの根底に流れているものを、私は 

     “ ポップ ” 

かな、となんとなく思ってました。
 “ ポップ ” と一口に言っても人によっていろんな感じ方があると思いますが、、、そういう感じ、としかいいようがありません。

 ポップと聞いて感じる、あいまいでなんかよく分かんないけど、軽くてはじけるような、みんな知っているような、浅くて広いようでだけどとても深いような、そんな感じ、とでも言っておきます。とにかく言葉に出来ないけど、ポップと聞いてみんなが受ける印象みたいなもの。
 個人的な話をすると、それは今私がとても興味を持っている事で、それがあったからこそ、このCDがその時の私に響いたんじゃないかなぁと思います。

 さて、全体の感想はこのぐらいにしておいて、このアルバム、演奏者についてもう少し具体的に触れておきます。

 まず演奏者ですが、KOTEZ&YANCY という名前のとおり、コテツさんとヤンシーさんの二人がメインになってます。(ほんとにそのまんま、、、。)
 コテツさんはブルースハープ奏者ですが、シカゴに渡った経験もあり、その圧倒的な技術と表現力で、ゆるぎない存在感を放っています。
 彼はライブやセッション中に突然ハープで乱入!という荒技で音楽の輪を広げたそうで、ヤンシーさんとの出会いもそこからだそうです。

 そしてさらにこのアルバムの3、5、10曲目ではリードボーカルをやっていて、その強烈な声(最初、コテツさんが歌う英詩の曲を聴いた時、まさか日本人だと思いませんでした。)で、聴く者全てを否応なしにひきつけてしまうような、ものすごい力を感じます。それは声もハープも同じです。
 また、10曲目の日本語詩はコテツさんが付けていて、その個性的な歌いまわしはとても素敵で、大の大人の男の人なのに、かわいらしくも思えてしまいます。

 対してヤンシーさんはピアノ奏者で、もちろん技術もすごいのですがそれ以上に、その独特の感性そのまま音になっているような、ピアノ、キーボードという楽器の枠を超えているような、なんともいえない不思議な魅力があります。ヤンシーという名前からして、なんか正体不明ですよね、、、。

 ヤンシーさんも1、4、7、12曲目のリードボーカルをとっていて、全てを包み込むようなウイスパーボイスがたまらなく心地よく、大好きな人に耳元で囁かれているような気分になってしまいます。
 特に12曲目の やつらの足音のバラード(もともとは、はじめ人間ギャートルズというアニメのエンディングテーマ曲です。)は、個人的に一番好きな曲で、ヤンシーさんのピアノと声に導かれて、自分が宇宙にぽっかり一人で浮かんでいるような感じがします。
少し寂しいようで、でもなにかとても大きな自然や母親の胎内に包み込まれているような、あったかい気持ち。
 ヤンシーさんはTV等で山崎まさよしさんや、スガシカオさんのバックでキーボードを弾いていたりするので、皆さんももしかしたらお目にかかった事があるんじゃないでしょうか。

と、正反対のようなお二人ですが、その魅力の違いが、ここ!!というピンポイントで発揮されていて、すごい音を生み出しています。

 それから興味深いことに、9曲目では二人ともがボーカルを担当しています。
今まで二人で歌ったり、どちらかがバックコーラスを担当するということはライブでもなかったらしいんですが、このアルバムをつくるにあたって一曲ぐらい二人で歌ってみたらという声があり、初めての試みをしてみたそうです。

 そしてその二人と共にこのサウンドをつくりだしたミュージシャンですが、ギター、ベース、トロンボーン、サックス、バンジョー、ドラム、パーカッションの総勢8名ですが、せっかくリズケンのホームページなので、ドラムとパーカッションを演奏された宮田 誠さんのことを少し書いておきます。

 宮田さんはドラムもパーカッションも演奏される方で、今年の5月に日比谷野音であったブルースカーニバル(その日の出演者はジミーボーンにバディガイ!!)にKOTEZ&YANCYが出演した時に一緒に演奏されていたのを見たことがありますが、実はその一回しか生で聴いた事はありません。だからあんまり詳しく知りません、、、ごめんなさい。
 でもその時の印象やこのアルバムの音を聴いて感じるのは、とても気持ちいい音を出す方だなぁ、ということ。

 このアルバムはけっこうパーカッションがフューチャーされていて、しっかりコンガなんかの匂いはするし、けっこう長く叩いていて存在感もあるのに、全然邪魔をしない。でもその音色自体や、ときおりピアノやハープや歌を跳び越えて聞こえてくるフィル、よく耳をすまさないと聞こえないちょっとした遊び心の音なんかも、全部とても気持ちいいんです。それはドラムも同じで、すごく気が利いている感じなんだけど大げさじゃなくて、私はとても好きです。


 とまあ長々とここまで書いておいてなんなんですが、今まで書いたことは実は別にどうでもよくって、音楽とか、本とか、絵とか、、、、作品に限らず、言ってしまえばこの世の全てのものは、それを受けた人がその時々で、なんか感じたり、なにも思わなかったり、すればいい思います。

 それでもし、自分の奥の方にするりとなんかが入ってくることがあれば(言うまでもないですが、他人にとってどうでもいいものでも)、そういうものがあった、そういう風に感じれた、そのこと自体がすごいことだと思います。
 もちろん、そういうことを他人と共有できれば、それももっとすごいと思いますが。
、、、だからはっきり言って、このアルバムを聴いてくれー!!とは全然思わないんだけど、ただあの時の私にとってのこのアルバムみたいに、言葉にできないけど自分にとってなんかいいんだ、って思えるものに私も含めてたくさんの人が、これからもどんどん出会えたらいいなぁー、って思います。

 なんか最後は精神論みたいになってしまいましたが(笑)、これを読んでKOTEZ&YANCYに興味を持たれた方は、ぜひライブに行かれる事を同時にオススメします。(門前仲町BIG HORN , 荻窪ROOSTER という店でよくやってます。)やっぱ生もいいですよ〜!!
 コテツさんもヤンシーさんもとってもいい方で、どんな音楽を生み出すのか生身の二人を見れば、きっとすぐに分かると思います。

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