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今月のおすすめ担当  リズケン研究生・那須野綾

「beauty and harmony」 

miwa yoshida

 95年にリリースされた吉田美和のソロアルバムで、私が年を重ねてもずっと聴いていくであろうCDの中の1枚です。 たまには聴いてみようかな〜と思って聴いてみると、何度も聴いたのに新鮮な気持ちになります。聴く時によって違った気持ちになるのです。その理由のひとつが吉田美和の歌詞にあると思います。
  いつも「私」の視点で書かれた詩は共感しやすく、聴いている時の精神状態、年齢などによって様々な意味に解釈してしまうおもしろさがあります。悲しい歌詞なのに励みになったり、歌詞の中にまた新しい発見があったりします。もちろん、重たい気持ちになり受け入れられない時もあります。吸い込まれるように自然と感情移入している自分がいます。それらはまるで本を読み終えた時の気持ちのようです。
  以前、吉田美和がインタビューで「自分の書いた詩を説明する気はない。自由に聴いてほしい」と話していました。彼女と切り離しても、詩そのものに十分な力があるのです。
 彼女の書く詩の中でもうひとつ好きなところは、愛のある擬人法です。人間以外のものもいきいきと描かれています。すべてラブソングですが、それは恋人に対してだけではありません。自分、体の一部、家族、友人、もの、自然、別れた恋人、…すべてを大切にしています。
     「さらさらと手を振る」 「空が泣いて街を冷やす
     「海に洗われる小石」  「街灯がうなだれる

 などという表現は、そのものの存在を認め、愛情を持って見ているからこそ出来ることではないかと思います。 このアルバムのタイトルにもなっている曲"beauty and harmony"では「この世界の美しさをずっとあなたと見られますように」と歌っています。ここでの「あなた」は人とは限らないと私は思うのです。優しさのこもった日本語は、なんとも美しいです。
 
 次にこのアルバムに参加しているミュージシャンについて触れてみようと思います。
  Harvey Masonのドラムは音が太く深く、ゆったりとしたうねりがあってボーカルにとても合っていると思います。ニューヨークっぽいシャープな感じではなく、ともすればタイミングがちょっと遅いのではないかとも思われるバックビートが気持ちよくグルーブしています。
  私の大好きなパーカッショニスト、Ralph Mcdonaldは音楽の中に空間、空気感を造っています。決して派手なことはしていないのに、暖かくて大きな存在感があります。コンガはともかく、タンバリンなどの小物楽器の音をあんなにすてきに聴かせてくれる人は他にいないのではないでしょうか。「ポコッ」とか「コキッ」とかいう音も、音楽にちゃんと溶け込んでいます。難しいことをしているようには思えないのに、ものすごい存在感があるのはなぜでしょう。
  ギターがDavid T.Walker、ベースがChuck Rainey、キーボードがJay Winding、トランペットがGreg Adams、サックスがMichael Breckerと他のメンバーも超一流です。ちなみに私がギターの音色を美しいと思ったのはこのアルバムが初めてでした。 後に全国ツアーのビデオが発売されていますが、こちらは特におすすめ。Eric Marienthalがとてもいい味出しています。
 そしてもっと素敵だと思うのがそれぞれの音の良さがちゃんと生きていることです。出すべき音だけを出していて、ムダがないというかっこよさがあります。おそらく全員が吉田美和の声をよく聴いていて、この音楽を同じ方向に持っていこうとしているのでしょう。音楽の全体像をみんなで見つめているのだと思います。バンドの輪の中で吉田美和が自らの歌の世界をのびのびと表現し、すばらしいミュージシャンたちが音楽に厚みをつけています。
 …というわけで、聴けば聴くほど味の出るスルメのようなCDです。いろいろに楽しめると思います。静かだけれど熱い音楽です。ぜひ聴いてみてください。    


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