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・楽器オモテ・ウラ話ー11月号
より身近に考える「ドラマーのための物理学講座 -実践編-」

第 2 章 ペダルの力学 - Part2 -

 先月号で、ペダルアクションの心臓部と言える駆動部分について色々考えてきましたが、その他の部分が動きやサウンドに与える影響に付いても重要なファクターになります。今回はペダル構造がサウンドやアクションに与える影響に付いて色々な角度から検証してみたいと思います。



§4 ペダルに加わる「力」

 皆さんが何気なく踏んでいるドラムペダル。ここにはいったいどんな力が、どのくらいかかっているものなのでしょうか?
 単純に考えると、ペダルを踏み込んだ状態では垂直方向に最大で自分の体重ぐらいの重みがかかると思われます。これだけの力が加わるのですからペダル自体には相当の負担がかかるはずです。
 ペダルを踏んだ力はカムを引っ張る力に変換され、さらにビーターがヘッドを押す力へとなっていきます。そしてヘッドからは当然押し返す力が発生します(作用と反作用)。
 さらに、スプリングを引っ張る力とスプリングが戻ろうとする力、ビーターが飛んでいこうとする遠心力など、ペダルを操作することによってペダルにとってはかなり過酷な条件が生まれます。では、実際にどのような影響が出てくるのか考えてみましょう。

(1)フレーム強度の重要性

 前述のとおり、ペダルを踏み込んだ場合かなりの力が色々な箇所に色々な方向に加わります。以下の図はこれらの力の影響がどのように現れるのかをそれぞれの部分に関してちょっと大袈裟に示したものです(このように目で見えるほど大きな影響は絶対でません。あしからず)。
 ご覧のように、ペダルに加えられた力がすべてビーターを動かす力にならずフレームの各所を変形または移動させようとする力が発生するわけです。このような変形が生じると当然ペダルのスムースな動きが妨げられることになり、さらにノイズや故障の原因にもつながります。したがってフレームの強度を十分に確保することが非常に重要になってくるわけです。
 メーカー各社も当然このことを踏まえたうえでフレームを設計していますので、モデルチェンジのたびにどんどんゴツクなっていくのは当たり前なのかもしれません。


(2)アンダープレート(フロアプレート、ベースプレート)の役割

 最近のペダルはアンダープレートが付いていることが当たり前になっています。でも、重量は重くなるし、折り畳みも出来ないし。では、なぜこのプレートが必要なのでしょう?

 アンダープレートの無いペダルをただ床に置いた状態で踏んでみて下さい。絶対にペダル自体が前後に揺れますよね。これは、ペダルを踏み込んだ際の力のかかる方向、そしてビーターが戻ってきた時の反動の仕業です。当然BDにペダルを取り付けた状態であってもこの動きをするように力がかかります。
 フープクランプだけでペダルを固定した場合この1点に相当の不可がかかることがお解りいただけるはずです。BDとの接触面積、床との接触面積が少ないため、特にビーターの反動に対する強度を考えるとかなり脆弱な構造を持っていると言って良いでしょう。

 そこで、登場するのがアンダープレートです。プレートの有無で、ペダルを踏んだ時に感じる安定感がかなり違うのはこれが原因だったのです。
 しかもパワーの伝達力も上がりますのでレスポンス、パワーともに向上するはずです。とは言え、プレートがあることが絶対に良いというわけではなく、あくまで比較論ですから。
(プレートがついていないペダルでも物凄いスピードで強烈なパワーを出すドラマーはたくさんいるわけで.......。練習しましょう!)
 とにかく、既成のペダルにたいした加工もせず簡単にペダルの剛性が高められるため、一気に普及していったことは確かです。


(3)スプリングにかかる力、スプリングからの力


 ペダルを操作していない状況を想像して下さい。どこも動いていませんね(あたり前か)。
 しかし、この状態でもペダルには力が働いています。試しにスプリングをはずしてみて下さい。ビーターがフットボード側へ倒れてしまうと思います。ビーターが止まっているということは、ビーターが下に落ちようとする力とそれを引っ張って止めようとするスプリングの張力がつりあっているからなのです。
 ということは、これ以上、ちょっとでもゆるめたらビーターが倒れそうになるポイントまでスプリングを張ってあげるだけでスプリングのテンションは機能的に十分と言うことになります(というか、この状態がもっともバランスの取れた自然な状態と言いかえることが出来ます)。

 仮にこのつりあいが取れていないペダルがあったとします。

 まず、スプリングの張り方が弱すぎる場合、スプリングのテンションがかかっていない状態でビーターが自分側に倒れていることになります。
 この状態では、踏みこみの初期段階でかなり遊びが出ていることになりスプリングにテンションがかかり始める時に1度抵抗感が生まれるはずです。

 次に、スプリングを張りすぎている場合は踏み込み始めた最初の段階から不必要なテンションがかかっていることになります。ということは、踏み込む際に余分な力をペダルに加えなければならないと言うことになるわけです。

 人によって踏み心地の好みは違いますので、一概にこれが良いとは言いませんが演奏時に余分な力を使わなくて済むということを考えると、スプリングのテンションはこの一番自然な状態にセットしてあることが望ましいでしょう。
 もし調整する必要があるのであれば、やみくもにテンションをいじるのではなく必ず自然な状態からちょっとずつ調節していくことをオススメします。
§5 ペダルにおける力学バランス
(ただし、私の独断と偏見による。科学的根拠は一切無し。)

 ここまで、ペダル上で繰り広げられる「力」の影響というものについて考えてきましたがいかがでしたか。ちょっと考えただけでも演奏に影響が出そうな(と言っても微妙ですが)事柄がいくつか挙げられました。そして、これら個々について考えてきた現象も相互に関連しあってより複雑なハーモニーを奏でてしまうことになります。
 このままではますます難しくなっていってしまいます。こうなると、もう私の脳みそでは考えることは不可能になっていきますので、深く追求することは避けますが、とにかく各メーカーはそれぞれの設計思想に基づき、ペダル内における力学バランスを取っていると言って良いでしょう。

(1)フットボードの大きさ(長さ)と踏み心地

 皆さんの大半の人は、色々なペダルを踏んでみてメーカーごとに踏んだ感じが全然違うという経験をしたことがある事でしょう。これは各メーカー毎の設計思想の違いが現れている証拠だと考えられます。
 踏み心地の違いは駆動部の形状の影響が大きいことは先のコラムでも触れましたがこれはあくまで原因の一つであってすべてではありません。もう一つの原因として考えられるのがフットボードのデザインです。

 例えば、dwのペダルはフットボードをやや短めにすることで、フットボードの踏み込み量に対するビーターの振幅を大きくし、パワーとスピードを稼げるようになっています。
 ただし、パワーとスピードに優れていると言っても全体としてのエネルギーに変化はありませんので、当然踏み心地は重くなっているはずです。しかし、このペダルを十分に踏み込める筋力があれば音量豊かな太いサウンドが得られることになります。

 それに対し、往年の名器ヤマハFP-720はボードが長くdwに比べビーターの動きと踏み込み量がよりリニアな感覚となっています。さらにビーター取り付け位置が他者と比べやや前方にあることからペダルの踏み込み量に対するビーター振幅が短くなっています。
 この事から、ヤマハはパワーよりも軽さに重きを置いた設計になっているといって良いでしょう。ライトな感覚でライトなサウンドを出したい場合、こんなにぴったりとはまるペダルはないかもしれません。

※ フットボードの長さと言っても実際にはかかと部のヒンジ(ボードが折れ曲がる部分)からチェーン等が接続されている箇所までの距離や、ペダル内におけるボードの最先端(これまたチェーンが着いている部分)の位置、力が加わる方向などにより感覚が決まってきます。
 ここに注目したのがパールのパワーシフター機能です。ヒールプレートの固定位置を変えることによってビーターの振幅は固定したままペダルの踏み込み量が微妙に変えることが出来ます。これによってパワー重視のセッティングとスピード重視のセッティング、この中間と言った3種類の状態を作り出せるようになっています。


(2)ビーターの重量&デザイン

 ボード以外にもペダルのバランスを決定付けるものとしてビーターが挙げられると思います。
 前述のように、ビーターはペダルスプリングのテンションが加えられなければ自然に自分側に倒れてきます。当然、重量が重ければ重いほどこの傾向が強くなりますので、バランスを取るためにはスプリングを強く張らなければなりません。こうなると踏み込むためには当然たくさんの力が必要になるわけです。

 しかし、ペダルの持つパワー = ビーターがヘッドにあたる時の運動エネルギー量と考えた時、この運動エネルギーはビーターの動く速度と重量に比例することになるわけですから、重いことが必ずしもマイナス要因になるわけではありません。これは、パワーが必要なドラマーが重いスティックを使うことと同じですね。当然しっかり踏み込めないといけませんが.....。

 サウンド面に関してはビーターのデザインも大きな影響があります。
 最近では メーカー各社から色々な形のビーターが発売されています。いったいどれを使ったら良いのか迷ってしまうほどです。では、なぜこんなに一杯種類が必要なのでしょう。
 単純明解に答えるなら、色々な音作りが出来るからということになるのでしょうが、それでは面白くないですね。
 この事に関しては、スティックのコラムが役立つかもしれません。形や大きさが変わればヘッドに接する面積が変わりますので音質も変わってきます。これは実際に色々なビーターを試してもらえばすぐに分かることですが、まるでBDを変えたかと錯覚するほどの物凄い効果がありますので是非実践してみて下さい。

 デザインと共に重要なのがビーターヘッドの素材。もっとも一般的なフェルトからプラスティック、ラバー、ウッドなど様々な素材の物が発売されています。こちらも色々試していただきたいです。硬ければ音質は硬く柔らかければ柔らかくなっていきます。
 最近の傾向としては、やや小さ目の比較的硬いビーターを使ってアタックを稼ぐことに重きが置かれている物が多いようです。
 ただ、ここにもエネルギー保存の法則は当てはまりますのでアタックが強ければ余韻の膨らみは目立たなくなり、膨らみのある重い音質を重視すればアタックが犠牲になることになります(でもビミュー!)。


(3)ペダルフィーリングとサウンド


 皆さんはペダルの踏み心地(フィーリング)についてどう考えていますか。おそらくほとんどの方は抵抗感の無い軽い踏み心地が良いと思っている事でしょう。以前は、私自身もそう考え色々なペダルを試していました。しかし、ドラムを演奏する技術が上がり奏法が変化してくるにつれて「もしかしたら軽いだけではだめなのでは?」と思うようになりました。それはなぜなんでしょう?

 答えは、キックの出音!

 私個人の経験で言わせてもらうと、

<軽いペダルは軽い音>
<重いペダルは重い音>

という図式が見事に成立していると思います。
 おそらくフィーリングの違いが踏み込み方の違いにつながり、ペダルに対する体重の乗り方が変わってくる事が原因じゃないかと思われます。
 軽すぎるペダルでは自分が考えているポイントに最大加速でビーターをヒットさせる前にビーターがヘッドにあたってしまいパワーが十分に伝わらないと、かってに解釈しているのですが.....。
 逆に、重過ぎる場合は十分にペダルを踏み込む為の筋力が無いと考えられるので、パワーを十分に伝える事が出来ない事になります。

 BDは曲の中でもっとも低域のボトムを支える楽器ですので普通は重みのあるヘヴィなサウンドを引き出す事が重要視されます(そうでない場合もたくさんありますが)。したがって軽すぎるペダルで、このようなサウンドを引き出そうとする事は無駄な力が入る原因にもなります。(この逆もしかり。これはスティックの重さにも通じます。)

 ペダルのフィーリングでペダルを選ぶ事は非常に大切な事です。しかし、自分の必要とするサウンドが出し辛い物を選んでしまっては、その後のあなたの演奏に悪影響を及ぼす事になります。


§6 自分に合ったペダルを探すためには

 ペダルを選ぶ時、皆さんはどんな事に気を付けていますか? まさか何も試さずに買っている人はいないと思いますが、店頭で少し試しただけでは何が良いのか分からない事も多いでしょう。スティックと違ってそれなりの値段がしてしまうので試しに買ってみるというのも余程サイフに余裕が無いと出来ません。

 では、どうしたら良いのでしょうか。

 それにはまず、自分の奏法や出したい音をはっきり認識する事が先決となります。これが出来ていないとはっきり言って「これだ!」というペダルを見つける事は不可能だと思って下さい。

 自分の奏法に合ったペダル、自分が出したい音が出しやすいペダルが欲しいという明確な選択基準があれば、それに沿って試していけば良いわけです。
 ビーターの長さを好みの位置に合せ、スプリングのテンションを前述のナチュラルポイントにした上で、


1. 重すぎず、軽すぎず
2. 踏み込んだ際の動きの感覚が不自然でないか
3. 自分がやっている思われる色々な奏法がスムースに行なえるか

といったことをチェックしてみて下さい。チェックポイントをしっかり考えてて試してみれば、無駄な時間をかける必要が無くなるはずです。
 とはいえ、一発でドンずばりなペダルと出会える事はありません。奏法や好みの変化によって自分に合うペダルも絶対に変わってしまいます。根気よく試していくしかないでしょうね。



今月のおまけ 〜 スプロケットとカム 〜

 チェーンドライブのペダルにはスプロケット(ギア)タイプとカム(ホイール)タイプの2種類があることは周知の事実です。では、この2者にはいったいどのような違いがあるのでしょうか。
 現在は圧倒的にカムタイプが主流となっています。スプロケットタイプはdwとジブラルタルぐらいしか作っていませんね。ではスプロケットに比べカムはどういった点が優れているのでしょう。
 これはもうノイズ対策以外の何者でもありません。カム部分にフェルトなどを張り付け、金属どうしが直接触れない様にすれば不要な音の発生する率は簡単に減らすことが出来るからです。

 しかし、力学的にペダルを見るとどう考えてもスプロケットの方が理に適っていると思うのは私だけかなー。

 皆さんはモンキーレンチと言う物の存在はご存知ですよね。感覚が自由に調節できるくちばしみたいなやつでナットを挟んでゆるめたりする道具です。
 同じ目的で使用される工具でメガネレンチと言うものもあります。これは口径が決められていて、この大きさのナットにはこれしか使えないと言うものなのですが、両方使ったことがある人ならどっちが楽にナットをゆるめることが出来るか分かりますよね。
 答えは「メガネレンチ」 なのです。
 この事がそっくりペダルに当てはまります。取り付けポイント1点に力が加わるカムタイプより、ギアのひとつひとつに力が分散されるスプロケットタイプの方が楽にペダルが踏めるはずなのです。
 ノイズ対策だけでカムが主流になっているのであれば、ギアの形状を最適化してやればノイズは減らせると思うのですが.....。
チェーンの遊びも防げますし。 メーカーがんばれ!!!!!

まとめ

 てなわけで、2回にわたってペダルについて書いてみましたがいかがでしたか。もっと書きたいことがあるような気がするのですが、脳みそオーバーヒート状態に陥りそうなのでこの辺で勘弁してあげるとします。
 こだわり始めるときりがありませんが、とにかく最初に書いた
「自分の感覚に従順で、欲しいサウンドが出る」
ペダルこそがあなたにとって最高のペダルです。そしてそのペダルは自分でしか見つけることは出来ません。このコラムを読んで、スティックを真剣に選ぶ人がたくさんいるように、もっとペダルを真剣に選ぶ人が増えてくれるといいかな........。

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