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・楽器オモテウラ話_4月号
第3章 楽器の構造と音質(音色)の関係

 前回のコラムで、楽器に使用されている素材の特性によってサウンドの傾向が変わってくる理由を簡単に説明いたしました。しかし、楽器にはたくさんのパーツが使用されており、それらが複雑に組み合わさった結果として一つの「音」となって我々が認識しています。したがって、「シェル材がこうだから音はこうなる」といった単純なものには絶対になりません。
 スネアドラムを例にとって見てみると、シェル、ラグ、フープ、テンションボルト&ワッシャ、スナッピー、ストレイナーそしてもちろんヘッドというパーツに分解でき、それぞれに音響(振動)特性があるのですから当然出来上がるサウンドは複雑になります。

 今回は、これらパーツが組み合わさった時、果たしてサウンドがどのように出来上がっていくのかを考えてみたいと思います。

※ 音質を語る時に避けてとおれない要素に、叩き手や聞き手の主観(好み)があります。また、聴覚の能力の影響も大きく、同じ音を聞いても全く同じ音色認識をする人はいないでしょう。こんな事を言ってしまうとこのコラム自体の存在自体が疑問になってきますが、あくまで理論ですからご勘弁を.....。
§1 ドラムを構成するパーツと音に対する影響

 冒頭に述べたようにドラムに限らず楽器は様々なパーツの組み合わせによって形成されています。ここでは、それらドラムを構成しているパーツの本来の役割と音に与える影響について考えてみます。


1, ドラムヘッド

 誰でも解るように、ドラムヘッドはスティックによる打撃によって直接発音する部分だけに、そのドラムの音を決める最重要パートになります。ドラムサウンドの70%ぐらいはヘッドの影響によって決まってしまうといっても良いでしょう。
 ヘッドの表面積、張力(チューニング)は音程に、素材(種類)が音質に、そしてそのいずれもがサウンドだけではなく演奏時のタッチ(感触)にも大きな影響があります。世の中には膨大な種類のヘッドが発売されており、何を張ったら良いか迷うほどですね。しかし、これは逆を返せば前述のとおり、ドラムの音を決める最重要パートであるからということなのです。
 ドラムヘッドの素材や構造にはいくつかの種類があり、メーカーによってもその個性は様々です。しかしヘッドそのものが持っている特性は基本的に前回のコラムどおりで薄ければセンシティブでバイブレーションが得られやすく、厚ければヘビーでボリュームが大きくなります。(その他、硬さや構造によっても音質が変わりますが、ヘッドに関する詳しい解説は、後日機会があればという事で...)


2, フープ

 皆さんは音質に与えるフープの影響ということを考えたことがありますか?
 スネアのフープをプレスタイプからダイキャストタイプに変えたら全然別の楽器になってしまったという経験のある人もたくさんいることでしょう。

 フープは本来、ドラムヘッドをシェルに張りチューニングをする際にヘッドを固定するための枠になる物ですが、その形状や素材、重量などの違いによってドラムサウンドに大きな影響を及ぼします。
 ヘッドに与えた振動のうち直接音となる成分は、上、横、そして打面を中心に360度の空間へ広がっていきます(音の回折作用)。フープはこの広がりを制御し音の抜け、締まり具合を決定します。一般的には製法の違いでプレスフープとダイキャストフープに大別され、前者はオープンな鳴りを、後者はタイトに締まったサウンドを引き出します。

 また、フープの形でもサウンドは変わり、背の高いものは縦抜け、低いものは横広がり、上端部が外巻きタイプはオープンに、内巻きはタイトになるようです。素材によっても当然音の印象は変わります。プレスフープではスティールとブラス、アルミなどがあり、ダイキャストフープでは亜鉛、アルミ、ブロンズが存在します。その他ウッド(メイプル)、チタンなど、様々なタイプが発売されています。


3, テンションボルト&ワッシャ

 ボルトとワッシャが音質に影響するというと皆さん驚かれるかも知れませんが、楽器の一部分を占めるパーツですから他の部分同様確実に(でも微妙に)影響があります。ただ、現在各メーカーが使用しているボルト&ワッシャの素材や規格には大差がないため、あまり気にする人もいないのが実状です。
 しかし、音質はもとより打面の感触までも大きく左右する重要なパーツなんです。材質が柔らかい(例えばブラス=真鋳)物を使えばアタック感は柔らかくなり音質も太くなります。逆に硬い(ステンレス等)物を使えばソリッドな感じになります。


4,ラグ

 ドラムのチューニングをするためにフープやボルトと共になくてはならないパーツ、それがラグ(舟形)。
 最近はシェルの振動を妨げない様に接触面積を少なくする工夫を各社していることからも、これまた音質に与える影響が大であることが窺い知ることが出来ます。シェルの振動を最大限発揮させるには、当然何も付いていないほうが良いのは解りきったことです。
 しかし、逆に重量のあるしっかりとしたラグを付けることで引き締まったサウンドにすることも出来るわけです。


5, シェル

 ドラムを購入される時に皆さんがもっとも気にかける部分ですね。シェルは共鳴体であり、ヘッドを叩くことで発生した振動を増幅する役目を果たします。
 前回の解説で色々と書いたとおり、シェルの厚み、硬さ、重量などによって音質は大きく変わります。
 
 しかし、ヘッドの項で書いたようにドラムサウンドの印象のほとんどは直接音を発する打撃を加える個所(ヘッド)であり、シェルの影響は発音した後の反響や広がりの部分に集中します。

 ヘッドから伝わった振動はシェル全体に広がりシェル表面からまわりに放射されることになります。したがってシェルの表面積と音質には、ある程度の比例関係が成り立ってきます。面積が広くなれば音量が上がり、周波数成分も低い部分が増えることになります。
 よく、「深胴は低い音がする」という発言を耳にしますが、これは音程が下がるわけではなく低い周波数成分が増えたために低く感じるようになるということです(ここで言った「感じる」という部分が非常に大切)。
 振動は外側だけではなく、シェルの内部にも広がります。振動(音)はシェル内部で反射を繰り返し(もちろんシェルに吸収されるものもありますが)、ドラムサウンドをより複雑に、豊かにします。
 もう一つ、ヘッドの振動をシェルに伝えるための重要な部分に「ベアリング・エッヂ」があります。

 これもメーカーによって様々な考え方がありますが、ヘッド振動を妨げないという前提にたてば、非常に鋭い鋭角のエッヂ、効率よく振動を伝えるのであればヘッドにエッヂが密着していて、なおかつヘッドの動きを妨げない形状が必要になります。
§2 音質とスペックの関係

 これまでの話で、個々のパーツが音質に与える影響はなんとなく解ったつもりになっていただけたことと思います。では、それらのパーツが組み合わさった場合どのような結果が得られるのでしょうか。
 ドラムの音質(広がり)の代表的なものには以下の3種類があると考えられます。


1, オープンで広がりがあるサウンド=ラディックなどに代表されるもので、側鳴り系のサウンド
2, タイトで抜けの良いサウンド=ソナーに代表される、遠鳴り系サウンド
3, タイトではあるが音が固まる感じのサウンド=グレッチに代表される楽器その物がなっている感じのサウンド

※ イメージとしては図2を参考にして下さい。

 どれが良い、悪いではなく、あなたの好みで選べば良いと思います。

 では、これら3種類のサウンドがどうしてこうなるのかを検証してみましょう。


1, オープンサウンド


 近年、ドラムメーカーがこぞって「鳴りの良い」ドラムを発売していますが、それらはすべてこの分類に入ります。これは,現在の音楽シーンでシェルの鳴りを最大限生かした豊かでレスポンスの良いドラムサウンドが流行っていることの裏返しでもあるわけです。
 構造としては、

1,薄くて軽く、硬いシェル
2,シェルの振動を妨げないパーツと取り付け方法

の2点が最大の特徴となります。
 サウンドは非常に豊かで気持ち良いのですが、高速連打をした際、粒立ちがはっきりしなくなるという欠点があります。この欠点をカバーするために最近は若干厚めのフープ(スーパーフープ、パワーフープ)やダイキャストフープを使用したり、レインフォースメントを装着し振動制御する事が一般的になっています。


2, タイトサウンド

 ソナーに代表される80年代から90年代に流行した重厚で音量が大きく、遠達力に優れたサウンドです。シェルなりを重視したサウンドの流行と共に徐々にすたれてきてはいますが、根強い人気があることも事実です。
 構造上の特徴としては、

1,重量があり、しっかりとした厚みと硬さを持つシェル
2,シェル同様、重厚なパーツでシェルを引き締めている

の2点がポイントです。
 重量のあるシェル、重厚なパーツによって引き締まったローエンドサウンドと広がりすぎない音抜けの良さを生み出します。これとあわせ密度の高い素材を使い内部反射を最大限引き出すことで遠達性に優れた強力なサウンドを得ることが出来ます。


3,固まったサウンド

 グレッチに代表されるドラム本体がその場で鳴っている感じを受けるサウンドです。若干こもった印象を受ける場合もあるかもしれませんが、そのポテンシャルは生音だけでは推し量れないすさまじいものがあります。
 構造上の特徴としては、

1,薄くて軽く、硬いシェル
2,重量がありしっかりとしたフープやその他パーツを使用し、サウンドを引き締め(閉じ込め)ている。

の2点が上げられます。
 オープンサウンドとの大きな違いは特徴の2です。鳴りを損なわない様に外へ放出するオープンサウンドと違い、薄いシェルの爆発的な鳴りを重いフープとパーツでその場に閉じ込め、音を固めてしまうわけです。このタイプのドラムは生音だけでは本当の良さを理解するのが難しいでしょう。
§3 まとめ(ドラムサウンドの実際)

 ここまでは、パーツとパーツが音質に与える影響に付いて大まかに説明してきました。しかし、実際に楽器を手に入れる際は、特殊な例を除いて、メーカーが市販している物の中から選択し購入することになります。
 自分がこういう楽器が欲しいと思っても、思い通りの楽器を手に入れることはかなり難しいですね。そこで、メーカーカタログに記載されているスペックからいったいどのようなことが解ってくるのかを、今回のまとめを兼ねてスネアドラムを例に考えてみましょう。

 カタログのスペックリストの中でだいたいのメーカーが挙げている項目として概ね共通するものには以下のようなものが有ります。


1,シェル(材質や構成=プライ数や厚み)
2,サイズ(口径と深さ)
3,フープ(フープの形状、材質、厚み)&テンション数
4,スナッピー
5,ストレイナー
6,ヘッド
7,その他共通項目としてラグやエッヂに付いて触れています。


 ここまでの説明とだいたい共通する項目が列挙されていることがお解りいただけると思います。まず、この項目ひとつひとつの特性を考え、関連付けていくことで、理論上導き出せる音質が見えてくるわけです。
 では、具体的な例を挙げてみましょう。

● Pearl Classic Maple Series MR-5314D
カタログに掲載されているスペックは以下のとおり
1,サイズ:14"×6.5"
2,シェル:4-PLY MAPLE(5mm) w/レインフォースメント(5mm)
3,フープ:マスターキャスト(ダイキャスト)/10テンション
4,ストレイナー:SR-015
5,スナッピー:S-030N(ハイカーボンスティール/24本)
6,ラグ:CL-100(クラシックタイプ/セパレート)
7,ボルト:T-061L(スティール)

 このモデルの解説としてカタログでは「抜群のレスポンスであたたかな音色を発揮する。」そして「マスターキャスト装備のモデルはヘヴィ&パワフルなキャラクター」とうたわれています。
 スペックからこの解説どおりのサウンドが生まれるのかどうか考えてみましょう。

 まず、シェルを見てみると、硬くて軽い素材(メイプル)を非常に薄く成形していることが解ります。シェル鳴りという部分だけを考えてみるとすごく鳴りがよさそうですね。当然、反応はセンシティブでシェル鳴りの豊かなオープンサウンドが生まれます。
 しかし、4plyという構造からあまり強度は期待できず、鳴りがぼやける傾向が有るかもしれないということが予想できます(シェルに振動を支えるだけの強度が無いと、ヘッドのバイブレーションを生かしきれず、サウンドの芯がぼやけてしまいます)。この辺の欠点を解消するためにレインフォースメント(エッヂ付近の補強材)が装着されています。

 次にラグですが、パールのクラシックラグはぱっと見大きく重そうですが、意外と軽く、ブリッジ形状のデザインでシェルへの接触面積は最小限に押さえられています。したがってシェルの振動を押さえすぎず、オープンな鳴りに貢献していると言えるでしょう。

 そして、そのオープンな鳴りをマスターキャスト(ダイキャスト)フープで引き締めサウンドのフォーカスをはっきりさせようという意図が読み取れます。広がる傾向のあるサウンド(振動)を重量のあるフープで止め、横向きから縦方向への音の流れを作り出すのです。

 そして最後の決め手はスナッピー。標準的なハイカーボンスティールのスナッピーですが、24本という少しワイヤーが多いタイプを使うことで、音量のアップをねらっています。

 と、ざっとこんな感じの事がスペックから読み取れるわけです。
 でも、あくまで理論上のことだけですから、実際に自分の耳で確かめてみることが一番です。そして、カタログに書いてあるうたい文句と実際に感じたことを比べてだんだんと知識を増やしていくと良いのではないでしょうか。

 前回と今回のコラムでは、主にドラムに付いて考えてきましたが、次回はドラムセットのもう一つの主役「シンバル」に付いてあれこれ考察したいと思います。

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