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(テキスト:ヤマムラマキト)
“この人キテます! 〜ドラムバカ一代〜” マルコ・ミネマンの巻

 最近、ちょっとマイブームがありました。ドイツのドラマー「マルコ・ミネマン」です。コマキ楽器で教則本を見つけて、ザッと見たっきりしばらくほっぽっていました。「Extreme Interdependent」というタイトルで、非常にシステマチックで難解なドラミングのアプローチをウォームアップやエクササイズとともに紹介しているものです。「またマンネリになってきたな」と自分のドラミングを戒めるべく、ひっぱりだしてきてやってみたのです。

 教則本を最初からザッと眺めながら、とりあえず面白そうなものをひとつやってみようと譜面を眺めつつ「こりゃ最近ありがちな変態コンビネーション系かと思っていたが、ちょっと違う感じだな...」と感じる私。まぁ当たり前といえば当たり前なのですが、なんだかどの譜面もかなり大変で、トライしてみるにも居住まいを正す感じ。安易にマンネリを打開しようとした私の甘い目論見は大きく外れ「あぁそういえばCDがついていたっけ」と、更に安易に付属のCDを取りだしてプレイバック(笑)すると、元気のいいサウンドがバシバシ!と出て来るではないですか。もっとこう、変態系な重い感じかと思いきや、ハツラツとしたサウンドなのです。「よし、デモを聴こうデモを!」CDの最後の方に収められているソロを、譜面を見ながら聴いたのでした。

 譜面を追いながら音を聴きつつ、前半は4分や8分のフレーズが多かったので、目は余裕があり、譜面の先を追っていました。「あれ?このフレーズ、かなり厳しいんとちゃうか...」先を目で追いつつ、とあるフレーズに目がとまり、その難しさを感じる私。次第に音も進みその場面に到達すると、ドラムはなんということなく、譜面に書いてあるフレーズをテンポ通りにこなしていきます。いや、もちろん当たり前なんですよ、もちろんね。教則本として売られているわけだし。でもですね、譜面をみただけで「あ〜これは難しいわ」と感じる度合いがちょっと普通と違うんです。例えて言うなら、テレビに誰かが登場して「ここに3mの棒があります」「これは私の口です」と言ったとしましょう。あぁ棒ね、長い棒だね、で、口ですか、口?口をどうするのかな?なんて考えているところに「では、この棒を私の口に入れてみます」えぇっ?いや、そりゃいくらなんでも無理でしょう、でも、ひょっとしてやっちゃうとか?あれ?誰もとめないし、本人いたって真面目な顔だし...、ひえ〜!!!やっちゃった!ホントに入っちゃった!うそ〜!なにそれ?というような感じでしょうか(笑)このソロはこのまま進むと、このフレーズが本当に音となって出てくるってことだよなぁ...ありゃ〜、ホントにやってる...みたいな感じです。

 ソロの後は、バンドでの演奏もありました。一聴すると、プログレチックな楽曲なのですが、ドラムをよく聴くと、実に凄い演奏。そしてそれを実にハツラツと、元気いっぱいでやっているのです。そしてまたシングルストロークの速いこと速いこと。なに食べてるんでしょうか一体。この、マルコ・ミネマンっちゅう人は何が凄いって「無茶」なんですな。右手とか左手とか、利き腕とか関係なく、4本の手足が平等にそして対照的に酷使されているのです。ハイハットのフットクローズを16分で3連打したり、バスドラムとフットクローズという、およそサウンドのバランスが成り立ちにくいふたつを組み合わせてフレーズにしたり。ドラム教室で「普通は使いません」みたいな曖昧な返答しかしないようなアイデアを、カッコイイんだかカッコワルイんだかわかりませんがどんどん実現してやってるんですな。

 でもそれが、なんだかハツラツと行われていることによって、成り立っているんですな。いや、聴いてて気持いいのですよ。どちらかと言えば、私はメロディアスなドラミングが好きで、組み合わせ論みたいなドラミングは好きではない方なのですが、なぜこのマルコメ味噌、もといマルコ・ミネマンのドラミングを良いと思うのか...。その答えは「楽しそう」だということなのです。それも底なしに。なんつうか、こんだけ変態なことやりながら「健康な匂い」がプンプンなのですね(笑)ゲルマン民族恐るべし。

 この人がマイブームとなった理由は、「楽しそうにやっていること」がグルーヴなのだと感じたってことなんです。もちろん、いろいろな理論や分析、スタイル学も否定はしませんが、なによりこの人は楽しそうなんですな。どうすれば売れるのか、どうすればよいのか、というよりも自分はこうしたい、自分はこうやってみたい、という次元に演奏をまとめているところが凄い。これだけの難解なテクニックでありながらも、「心」とともに育まれてきたドラミングであると感じたのでした。自分はこれと同じ路線ではないけれども、自分もまた自分のアイデアで勝負するべきだし、またその勇気をもらったような気分ですね。

 マルコの演奏はビデオもあるはずですが、もうすぐDVDも出てくるらしいです。是非一度体験してみてください。

  


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