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(テキスト:ヤマムラマキト)
「魔のトライアングル」

 さてさて、前回までライドの達人をお伝えしましたが、今回は「シンバル・セッティング〜魔のトライアングル〜」という題名で進めてみたいと思います。香川県に「満濃トライアングル」という、讃岐うどん好きなら知っている地域がありますが、それとは違います。元祖釜揚げの長田、腰のバンバンに強い元祖醤油うどんの小縣家、そして行ったこと無いけどその向かいにあるという柳生屋で構成されるトライアングルなのです(だから違うってば)。

 ライドバカとしては、「良いライドとは何か?」ということを常々考えるわけです。しかしこれがなかなか難しい。先月のボカ〜ンの楽器オモテウラ話にもありましたが、その正体は実は「記憶」だったりもするわけです。だから、スティーヴガッドを聴いて「よいな〜」と思って育った人にとっての良い音と、コージー・パウエルの音を聞いて育った人の「よいな〜」は当然違うわけですね。私などは、演奏する曲のジャンルやバンドの編成、そしてその日の体調や、さっきまで聞いていた曲などに簡単に左右され、毎日「よい音」の基準が変わったりしてます。ある意味好みということですね。

 しかし、もう一つ大事な視点があります。いくらライド・シンバルがよくても、セットでのバランスが実に大事です。これを私はシンバル・セッティングにおける「満濃トライアングル」と呼んでいます(だから違うってば)。ハイハット、サイド、トップの3点、これは現代のドラム演奏には欠かせない要素です。その他スプラッシュやチャイナ、フラット・ライド、もう一枚クラッシュ、などなどオプションの要素はありますが、まずこの3枚が核になってきます。

 このトライアングルを考える際、私がチェックするポイントとしては以下のような点があります。

1)ハイハットのフット・クローズ、ハイハット・クローズ(スティック)ハーフ・オープン、オープンの音のつながり。

2)クラッシュ・サウンドとともに、ボウのサウンドがライドとしても使えるサイド・シンバルであること。

3)トップ・シンバルの、エッジからボウ、カップまでの音のつながり。そしてPing音とショルダー・クラッシュ、フル・クラッシュまでの変化の具合。

4)ハイハット→サイド→トップのサウンドの流れと音量のバランス。

5)トップ・シンバルのレガートとハイハットのフット・クローズのバランス。

 書き出してみると結構ありますね。こんなだから悩むっちゅうねん。ある意味理想高すぎですか(^_^;)。

 1)は、ハイハット単体としての性能です。クローズが気持ちよくてもオープンがうまくなかったり、叩くと良いけれど踏んでも「チッ」と鳴ってくれないものなど。また、オープンで叩いたときに「ピシッ」と出てくれるとメリハリが効いてよいですね。

 2)は、サイド・シンバルに関してはクラッシュ・サウンドが要ではありますが、17〜18インチくらいのサイズなどで、レガートしても成り立つシンバルであると実に有用。カップのサウンドが良かったらもう文句なし、最低限のセッティングでも充分に表情を出せることでしょう。

 3)トップ・シンバルは捨てるところがない、なんて言う人がいます(いないって)。要するに、スティックのチップで叩いて良し、ショルダーで叩いて良し、フル・クラッシュして良し、ボウもカップもどこを叩いてもよし、なんていうシンバルが理想です。ジャズなど演奏する場合には、特にこんなシンバルの存在がアナタの演奏を引き立ててくれることでしょう。

 4)以上、これだけの厳しいチェックを通過してもなお、シンバルのセット全体のバランスがよくなくてはいけません。ハイハットで演奏しながらサイドでクラッシュ、こんな時にハイハットとサイドのサウンドがバラバラではいけません。これは、ライドで演奏しながらサイドでクラッシュするときもそうです。そして、ハイハットからライドに行ったときに、ボリュームやピッチの関係で「失速」した感じになると、演奏していてもなかなか盛り上がりません。

 5)最後のこの項目、この項目が満たされない結果、トライアングルが成立しないということは多いです。トップ・シンバルがすごく良いと、逆にハイハットとの開きが大きくなることが多いと感じます。また、フット・ハイハットのサウンドがしっかりしたものをチョイスしようとすると、ウェイトの重いペアになりがちで、そうなるとクローズやオープンのサウンドに色気がなくなってしまったり、音色が堅くて演奏が難しいと感じます。

 いや〜シンバル面食いという感じでしょうか。自分で書いてみて、一体自分は何様かと恥ずかしくなってきました。しかし、よいライドを選ぼうと思ったときに、ただ有名メーカーのグレードの高いものを選べばよいということではなく、やはり大事なのはセットのバランス。このトライアングルのバランスがよいと、演奏していて世界が広がってきます。もしお気に入りのハイハットやクラッシュ・シンバルがあれば、組み合わせてよいものを選ぶべきです。私の場合、この3点をしっかり決めて「小さなイライラ」を極力減らし、あとはオプションとして自由に考えつつ、精神衛生の保持と潔い演奏を日々心がけております。

 さて、実は今回でライドバカ一代は終了です。来月からは「ドラムバカ一代」としてより広範囲な話題を提供する予定です。お楽しみに!

  


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