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(テキスト:ヤマムラマキト)
 今回のライドバカ一代は、先月に引き続き「ライドの達人」その2を紹介したいと思います。その名は「ジャック・ディジョネット」、みなさんもよくご存じのジャズドラム界の重鎮的存在になりつつある人であります。


Jack & Makito '97です

 ジャック・ディジョネットは、パット・メセニーが好きだったことで聴くようになりました。Parallel Realitiesというディジョネットのアルバムにハービー・ハンコック、デイブ・ホーランドなどと共演していて、そのなかのJack Inという曲やIndigo Dream Scapesという曲をコピーしていたりした記憶があります。

 「なんていうか、独特な音だなぁ」と感じたのを憶えています。すごくこだわった結果のサウンドという気がして、味わい溢れた焼き物を見ているかのような気分でした。とても乾いた印象で、土や火や木のイメージを感じたのですが、その当時はまだまだ電子的なサウンドも好きで「ふ〜ん個性的」てな程度ではありました。

 その後、しばらくはディジョネットもあまり聴いていなかったのですが、段々とより深い味わいを音楽に求めるようになって来たときに、ハービー・ハンコックの「New Standard」あたりで、改めて「ディジョネット凄くねぇ?」てな感じで急浮上してきました。そうしてしばしディジョネットのフレーズ、ドラムセットのサウンドに耳を奪われていた頃に、ちょうどドラムマガジン編集部から「誰かディジョネット好きな人いませんか」という電話。まさに渡りに船、オレデスオレデス、オレスキッスヨナンデモヤリマスとまくし立て、インタビューに漕ぎ着けたのでした。

 ディジョネットのドラミングは、脱力したストロークでありながらダイナミクスの幅が広く、シンバルのサウンドがとても美しい。そんなことがファンの間ではよく言われていました。ビデオなどで見るとスティッキングはちょっと粗雑に感じられるのですが、聞き込めば聞き込むほどに味が出てくるようなドラミングで、さりげないんだけど愛があって、野性的なんだけど都会的な面もある。また、自然界の音にも似た要素がたくさんあって、グワ〜と盛り上がって叩いている時のサウンドは、嵐か台風か、森の木が騒いでいるかのようなイメージなのですね。

 インタビューでは「あなたのシンバルサウンドは実に美しい。あまりに素晴らしくてこんな人には適わないよと友人が言ってました」と伝えると、「ボクは今まで、素晴らしいドラマーの演奏を聴いてやる気を出してきた。だから、そんな風に言われると悲しい」と言ってました。あくまでボクは誉め言葉の延長という気持で伝えたのですが、この純粋な返事に「あぁオレってなんて汚れた人間なんだ...」とガックリしたのを憶えています(笑)

 ディジョネットのシンバル歴は、パイステ時代にSound Creationをコーディネートし、その後SABIANでシグネイチャー・モデルを作っています。この「ディジョネット・モデル」は、最初に発売された物と、その後復活した「アンコール・シリーズ」というのがありますが、どちらも、これでもかという位にドライで、アタックも明瞭ですが、ピッチが低く他の楽器の音を殺さないサウンドです。ソナーとのマッチングもバッチリで、ドラムセットのサウンド、フレーズ、アーティキュレーションなどドラミング全体が完成度が高く、実に個性的です。

 最近、リズケンのE先生が初代ディジョネット・モデルをフルセットで手に入れ叩かせてもらいましたが、あの方向性の究極点を感じさせてくれる、実に奥の深いサウンドです。出来上がったものを叩いて聴いて、ああだこうだと言うのは簡単ですが、ディジョネットの、あのサウンドに辿り着く感性というものにはまさに尊敬の念を感じます。もしあなたがシンバルのサウンドでなにか思うことがあれば、一度ディジョネットのサウンドを研究してみると、なにかしら見えてくる筈です。お試しあれ!


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