「ボカ〜ン!」はリズケンがお贈りするエンターテイメント・マガジンです。
リズケン・スタッフや外部ライターの方による傑作をお楽しみください!
リズケンサイト・トップページへ
    

(テキスト:石川 武)

今回の偉人さん

Airto Moreira
(アイアート モレイラ)

70年代のマイルス・デイヴィス、リターン・トゥ・フォーエヴァーなどとの活動により、一躍名声を高めたブラジル出身の現代屈指のパーカッション奏者

アイアートのパーカッションを学ぼう
Miles Davis
Miles Davis at Filmore
Airto Moreira
BRAZILIAN PERCUSSION

 インタビューに行ったことで強烈な印象があるのは、私の場合この人かな。まだまだインタビュアーとしては駆け出しだったころ(実は今でもあまり進歩はない)、もうかれこれ15,6年前になりますか。この当時ライブ・アンダー・ザ・スカイと言うジャズ・フェスティバルに15年ぶりで来日したアイアートに会えることになったのですが、このインタビューが私にとって色々勉強させられるものとなるのです。
日本の太鼓

 インタビューは東京プリンスホテルで行われたのですが、その日の通訳は私の友人のドラマーでした。10数年ぶりということで初歩的な質問からかな、と、まずは彼のバックグラウンドなどをたずねてみました。すると

「バックグラウンドを調べるのはインタビュアーの仕事、時間の無駄だ。次の質問。」

・・・・このあとは何をどう聞いたかあまり覚えていません。ただ覚えているのは、次にした質問に対して、その内
容とは一切関係なく、近年のジャズ界の不振への不満を、30分近くまくし立てたことです。

「大体俺のことを10年以上も放って置くとは、日本もなにやってるんだ!ニューヨークでも俺の友達がどんどんミュージシャンやめちゃってるし、もっと皆で音楽界を活性化しなきゃ!!」

ってな感じのことをものすごい勢いで話してました。
 そして一息つくと「次の質問!」とおっしゃるので通訳の友人ととっさに話し合って何かを聞いたんですが、帰ってきた返事はまたさっきの続き。またもや2,30分まくし立てるとインタビューの時間切れ。一応お疲れ様ってことになったんですが、あまりにまくし立てすぎて腹が減ったのか「食事したいんだけど誰か一緒に行かないか?」とおっしゃいます。すぐ隣にいた私は「YES」と口が勝手にいってしまいました。すると他のスタッフたちは「僕あとにやくそくがあるので・・・」。

 結局食事は僕一人。ホテルを出て2人で歩きながらたどたどしい英語で「何食べます?」と聞くと「すしかな」と言うお返事。思わず財布を確かめていると「さっきのインタビューは君が書くの?」と言うので「ええまあ。」と答えると「あまり俺のことを悪く書かないでくれな。」と意外なお言葉。

「あれはオフィシャルな顔だからさ。本当はやさしいんだよ、俺!やっぱり誰かが問題提起してないと状況よくならんからな。」

・・なんて大人なんだ!!大きな状況を考えて自分が悪者になるって、なかなかできないですよね。最近は責任回避、責任転嫁する大人ばっかりですもんね。このことで私は一気にアイアートファンになりましたよ。
 その後食事をしながら彼がこんなことをいいました。


「君はどんなパーカッションを叩くの?鼓は?太鼓ドラムは(大きな和太鼓のことをアメリカではこう呼んでいます)?」

「いや、私は一般的なラテンパーカッションを・・・」

「日本の太鼓は何もやんないの?」

「はあ・・」

「なんでさ、日本にはあんないい楽器がいっぱいあるのに!第一いくら君たちががんばっても、やっぱりキューバ人やブラジル人にはなれないんだよ。日本人である利点をもっと生かさなきゃ。アメリカで一番仕事になるのは、日本人の場合太鼓ドラマーだぞ。」

・・・なるほどなー、と思いました。確かに日本人って日本人であることを恥ずかしくは思っても、誇りにすることってあまりないかもしれないなー、特にミュージシャンは・・・
 ちょっと痛いお言葉でしたが、何か目がさめたようにも思いました。もう少し自分と言うものを見直してみようかな、と。

 そんなわけで今回はちょっとまじめな話でした。やっぱりアイアートは大人だったなー・・・・
 

今月の一言


Why don’t you play the Japanese instruments,
like tuzumi or taiko-drum?

日本の太鼓は何もやんないの?

解釈・・・そういえばなんでだろう?(偉人さんはするどい)



Presented by RIZKEN / since 2001.03 / All rights reserved by KENMUSIC