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(テキスト:石川 武)

 早くも第2回目を迎えたこのコーナー。今回はブラジリアン・パーカッションの神様、ナナ・バスコンセロス氏のお話です。現在私のパーカッションマスタークラスでは、サンバの楽器を再確認してるところなんですが、一つ一つは簡単にできている楽器なのに、ニュアンスを出すのが難しかったり、アンサンブルもひとつのグルーブに仕上げるのは至難の業ですな。今回はそんなサンバの一面を垣間見たお話を思い出してみましょう。

今回の偉人さん

Nana Vasconcelos
(ナナ・バスコンセロス)

ブラジリアン・パーカッショニスト。ボサノヴァ、ジャズ、MPBなどあらゆるミュージシャンのCDに参加し、パットメセニーグループで有名となった。彼のビリンバウは必聴。

ナナのテクニックはこれでぬすめッ。
Vinicius Cantuaria
Tucuma
OFFRAMP
Pat Metheny Group
「サンバのリズムは血のリズム」


 ナナ・バスコンセロス氏のインタビューは今までに2回ほど行かせてもらってるんですが、第一印象はものすごく物静かな人。でも音楽の話をはじめると眼光が鋭くなる。ちょっと怖いくらいでした。
 でも、様々な質問に快く答えてくれたのを覚えています。

 はじめのインタビュー時のお話。

 場所は東京プリンスホテルのラウンジ。みんなでラウンジにはいり、まずは注文ということになりました。日本人勢はみな「ホットね!」
 「ナナさんはどうします?」というと、おもむろにウエイトレスに直接なにやら話し始めました。聴いてみると「エスプレッソある?」とナナ。「はい、ございます。」ウエイトレスが答えると「それじゃあダブルで!・・・・・・・?OK.」・・・の部分は聞き取れませんでした。
 「そうだよな、エスプレッソってちいさいもんな。1時間のインタビューには少ないよな・・」なんて考えているうちにコーヒーがやってまいりました。あれ、でもナナ氏のカップはどう見てもデミタス。「さっきダブルでって頼んでいませんでした?」と聞くと、「ああ、あれは豆の量のことさ。」とお答えになった。
「えーっ、ただでさえエスプレッソって濃いのに・・・」というとナナ氏

 「ブラジルでよく飲むコーヒーはなべで煮出して作るんだ。ブラジルはコーヒーの産地として有名だろ?でも高級なコーヒー豆はみな海外へ輸出しちゃう。国内で一般的に飲んでいるやつは煮出さないとうまくならないんだ。だから濃いコーヒーになれているってわけ。」
 
 それにしてもエスプレッソの豆2倍とは・・。しかもその小さなカップに砂糖を4杯も5杯も入れている。いやー、色々な文化があるものですねー。

 とまあ、インタビューをはじめたわけなのですが、終了してからオフレコでどうしても聞きたい質問があったので、おもむろにぶつけてみました。

 「あなたにこんなことを聞くのもなんなのですが、ブラジルのサンバのリズムって独特な訛りみたいなものがありますよね。あれをあなた方はどのように理解して、どんな風に練習して、人に教えるときもどのように教えたりするのですか?」

 するとナナ氏1,2分じっと考えた後、

 「わからん!」


 とお答えになりました。

「僕たちは結局生まれたときからあれを聞いて育っているからね。気がついたらああいうリズムになっていたわけよ。まあ、しいて言えばスルドの音を基準にそれぞれの楽器を演奏すると自然にああなっちゃうんだよね。」

・・・参考にも何もなりませんでした。でもよく考えてみると、日本人も祭りの太鼓って誰に習うこともなくなんとなくできちゃってるでしょ。あれと同じことなんですよね、きっと。血のリズムってことなんですかね。とまあその後私も生徒たちには本物を聞いて、そっくりそのまま真似しなさいって言っています。なんか説得力ないんですけど・・・。
 

今月の一言


「わからん!」

解釈  “ 偉人さんはみな正直である! ”


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